広島地方裁判所 昭和47年(む)51号 判決 1972年2月26日
主文
本件申立を棄却する。
理由
本件申立の趣旨および理由は、準抗告申立書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。
一、当裁判所の事実調の結果によれば、被疑者は建造物侵入被疑事件により、昭和四七年二月一八日逮捕され、引続いて同月二一日広島拘置所に勾留されると同時に接見等を禁止されていること、および検察官小林庄市は、本件について、申立人主張のような指定(以下一般的指定という)をなしたことが認められる。
二、そこで、まづ検察官が行う一般的指定の適否について按ずるに、なるほど、刑事訴訟法は憲法第三四条の間接の要求として弁護人の接見交通権を保障し、弁護人との接見禁止の措置をとることを認めない。これは被疑者の正当な利益を擁護するためには被疑者と弁護人が一体不可分の緊密性を保持すべきであるという考慮によるものと思われる。それゆえ弁護人の接見交通権は何人によっても侵害されることのない固有の権利であるというべきである。
しかしながら、また一面捜査機関は強制捜査の権限を有し、強大な人的物的設備を有してはいるものの、当該事件の性質上捜査の当初から被疑者と弁護人との接見を自由かつ無制限な状態におくことによって被疑者の取調に支障を生じ、あるいは捜査の動向を察知され明らかに罪証をいん滅すると疑うに足りる特段の事情が認められる場合には弁護人の接見交通権もある程度の譲歩を迫られることのあるのもやむを得ないところといわなければならない。刑事訴訟法第三九条第三項もこのような配慮に基いて、原則として自由且つ無制限な弁護人の接見交通権も捜査機関が具体的事件の捜査上必要があると認めた場合は、接見について日時、場所、時間を指定することができるという例外を定めて、捜査権と防禦権との調和を図ったものと解されるのである。
したがって、弁護人の接見交通権も捜査機関が捜査上必要があると認めた具体的事件については既に無制限のものではないのであるから、あるいは事案の内容如何によって一般的指定を行うことが許される場合もあるものといわなければならない。それゆえ、弁護人の接見交通権がつねに絶対無制限のものであることを前提として、これを制限する前記条項および同条項に基いて検察官の行う一般的指定が憲法第三四条に違反する旨の主張は理由がない。
三、更に進んで、果して、右の一般的指定が検察官のした刑事訴訟法第三九条第三項の処分として同法第四三〇条第一項所定の準抗告の対象となりうるか否かの点について按ずるに、一般的指定というものは、単に検察官が、当該被疑事件については、弁護人または弁護人となろうとする者において被疑者と接見する場合、日時、場所、時間の具体的指定をなすべき事件であることを、あらかじめ監獄の長または被疑者に対して通告する措置にすぎず、それ以上に申立人主張のように弁護人または弁護人になろうとする者を拘束する効力や、被疑者との接見を一般的に禁止する意味を有するものではないと解するのが相当である。なるほど、右のような一般的指定がなされる結果、弁護人または弁護人となろうとする者は、接見に先立って検察官に申し出て、接見の日時、場所、時間などの指定を受けることになろうけれども、それは事実上の必要の問題であって、そのことのために被疑者との接見が一般的に禁止されたものということはできない。
したがって、一般的指定はいまだ刑事訴訟法第四三〇条にいわゆる「処分」ということのできないもので、準抗告の対象となり得ないものである。それゆえ、本件申立はその理由がないから同法第四三二条、第四二六条によりこれを棄却することとする。
(裁判官 片岡聡)